一級建築士設計製図試験に挑戦される皆さん、2025年度の課題が「庁舎」と発表され、すでに情報収集や計画演習に励んでおられることでしょう。
今年度の庁舎課題では、例年に増して基準階の扱い方が合否を分ける重要ポイントになりそうです。
本記事では、「基準階をどう設定するか?」「いつ、どうやって変更するか?」を軸に、計画のスムーズな進め方と、逆に陥りがちな落とし穴を解説します。
製図試験comcastでも解説しています。
■「基準階」から計画をスタートするメリット
2025年度課題では、庁舎としての複数階構成が想定されます。行政執務部門や管理部門が上下階に分散するような場合、共通の機能配置を持つ“基準階”を先に決定する方法は非常に有効です。
なぜなら、動線・構造計画が統一しやすくなる、上下階の矛盾を事前に排除できるといった時短と整合性確保の両面で有利な判断だからです。特に階段・エレベーターのコア位置は共通になるため、1/2階の計画も基準階からの“残部”だけに集中すればよくなり、時間的にも精神的にも余裕が生まれます。
■しかし「基準階」作戦には“リスク”もある
とはいえ、「基準階を先に固める」という戦略には一つの大きなリスクがあります。
それは、
「基準階が下階や上階と“かみ合わない”事態に陥ること」です。
たとえば、基準階で最適に配置したEV・階段などが、1階の来庁者動線や議会部門、セキュリティ要件と全く合わなくなる。あるいは、基準階がコンパクトすぎて、上階の必要面積がまかないきれず、不自然なキャンチレバーが生まれてしまう。
その結果、以下のような苦しい展開に追い込まれることになります:
- 無理な構造スパン
- わかりにくいエントランスや執務部門にコアが来てしまう
- 階段と吹抜けの干渉
- 視覚的・心理的に不自然なエントランス動線
こうなってしまうと、「せっかく決めた基準階」が足かせになってしまうのです。
■計画をスムーズに進める“鍵”は「捨てる勇気」
こうした事態を避けるにはどうすればいいか。
その答えは──
「合わなければ、潔く基準階を捨てること」です。
設計製図試験は時間との戦い。
一度決めた基準階にこだわって全体をゆがませるよりも、いったん“捨てて”再構築するほうが、むしろ早くて安全な場合が多いのです。
もちろん、基準階を捨てる決断は怖いものです。
「もう1時間も描いてしまったのに…」
「せっかく動線整理したのに…」
そんな気持ちがよぎるのも当然ですが、
最後まで“帳尻合わせ”に追われる地獄の残り時間利用と比べれば、今の1時間を潔く手放す方が、結果として合格への近道となります。
■「設計のコツ」──新しい基準階は“柔らかく”作る
では、基準階を捨てた後、どうやって新たな基準階を再構築すればよいでしょうか?
ポイントは以下の3点です:
- 上下階との共通点を見つけながら構築すること
→最上階・1階それぞれの面積・動線をざっと見積もり、「共通化できそうな核(EV・階段)」を中心に計画。 - 階段・EVの“束縛”から自由になる仮の案を描く
→あえてEVを仮置きせず、面積とゾーニングに集中。最終的にベストなEV位置が導き出せた段階で全体にフィードバック。 - 「部分モジュール」として再設計すること
→基準階を“全部”一気に固めようとせず、「ユニット(例:事務室+倉庫)単位」で積み上げていくと柔軟に対応可能。
■合格する人は“柔軟”に動く
実際、これまでの合格者たちは「最初に決めた基準階をそのまま押し通した人」よりも、「途中で見直して柔軟に対応した人」の方が多い印象です。
設計製図試験は、“柔軟に考え、割り切れる力”も含めて試されています。”
- 最初に描いたものを捨てる勇気
- それでも立て直せる冷静さ
- 全体を見通すバランス感覚
これらは、実務における設計者としての力量にも通じる大切な資質です。
■基準階は「武器」にも「毒」にもなる
本記事では、「庁舎」課題において基準階から計画する戦略の利点とリスク、そして最終的に重要なのは“捨てる勇気”であることをお伝えしました。
基準階から計画するとスムーズに進行しやすい
- ただしEV・階段の固定により、上下階と合わない場合がある
- そのときは「潔く捨てる」ことで計画全体が整いやすくなる
- 再構築時は、柔軟で可変性の高い基準階案を目指す
受験生の皆さんにとって、「基準階」は頼れる味方にもなれば、設計全体を狂わせる厄介者にもなります。
その特性を理解し、冷静に付き合うことが、合格への第一歩となります。
■でも簡単に基準階を捨てられない受験生のために
製図試験comでは、簡単に基準階を捨てられない方への秘策を用意しています。これは「課題分析帖+パーツ集」で解説していますのでご検討ください。
なお、通信添削コース1/3/4と合格基礎講座には含まれています。