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令和元年一級建築士設計製図試験課題「美術館の分館」解題

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山口@製図試験comです。
平成21年から公共施設型と基準階型が隔年出題されていましたが、ついにその暗黙の了解が都市伝説となり、昨年の「健康づくりのためのスポーツ施設」に引き続き、公共施設系の課題の出題となりました。JAEICが発表した課題内容はここをクリックしてください。

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■時代背景

各都道府県にはそれぞれ美術館があります。(https://www.jalan.net/news/article/111703/)これらの多くは1980年代、90年代の美術館ブームに乗って建設されてきた経緯があります。(https://gentosha-go.com/articles/-/9891)そしてこれらの多くは円熟期や更新期を迎え、拡張するタイプは分館や新館建設に、再構築していく場合はリノベーションとなったりしています。また廃館になった美術館もあります。また美術館へのニーズも、当時の美術鑑賞から、参加型ワークショップを含む市民創作活動の支援型が定着しつつあります。そういった背景のもと、美術館を機能的に拡張するというテーマでの「美術館の分館」は課題の切口や時代設定については的確な課題ではないかと考えられます。

■要求図書

1階平面図・配置図(縮尺1/200) 2階平面図(縮尺1/200) 3階平面図(縮尺1/200) 断面図(縮尺1/200) 面積表 計画の要点等

これは例年とは同様で定番化しています。床伏図がないため、構造要件については、記述もしくは図面内で何かが要求されるにとどまると考えられます。

■注釈(ナンバリングは製図試験comによる)

・既存の美術館(本館)の隣地に、美術、工芸等の教育・普及活動として、市民の創作活動の支援や展示等を行うための「分館」を計画する。
・屋上庭園のある建築物の計画
・建築基準法令に適合した建築物の計画(建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)

1)この部分は分析が必要です。 2)屋上庭園は出題すると明言。 3)基準法不適合建築物は不合格にする宣言です。

■建築物の計画に当たっての留意事項

・敷地条件(方位等)や周辺環境に配慮して計画するとともに、空調負荷の抑制や自然光の利用を図る。
・バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等に配慮して計画する。
・各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
・建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
・構造種別に応じて架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面寸法の部材を配置する。
・空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。

少しずつ気になる表現が出ています。

1)敷地条件に「方位等」をいれていること
2)近年入っていたパッシブデザインという言葉がなくなったが、空調負荷の抑制、自然光の利用、省エネルギーは含まれていること
3)ゾーニング条件は、今年も「各要求室」となっていること
4)5)6)は例年と同じですが、「適切な断面寸法の部材」は押さえておく必要がありそうです。

■過去の類似課題

平成22年「小都市に建つ美術館」
平成6年「地方美術館」
平成17年「防災学習のできるコミュニティ施設」(既存建物出題)                                  
昭和61年「集会施設をもつ郷土資料館」(既存建物出題)

類似課題である平成22年の「小都市に建つ美術館」はワークショップもある小規模な美術館でした。また平成6年の「地方美術館」は、変形敷地の2階建て2,000平米強の小さな美術館でした。加えて本年度課題は「分館」であることから、既存建物ありの課題も参考にしておいた方がよいと思われます。

■課題解題

ポイントを5点ほど挙げました。

1.美術館の「分館」であること

美術館本館に対しての「分館」であるということが本年度課題の一番ワクワクする部分です。
美術館本館機能のうち本館機能の一部、課題の注釈1)には「美術、工芸等の教育・普及活動として、市民の創作活動の支援や展示等を行うための「分館」」とあるため、この提示条件から考えると、市民の創作活動用分館であると読めます。分館なのですが本館の美術品用の巨大収蔵庫や本館からの美術品搬出入は考慮しなくてよいと考えられます。

2.本館との関係性

注釈1)に「既存の美術館(本館)の隣地に」とあるように既存本館に対しての分館は、隣地に建設されることが明示してあります。そのため、隣地との関係性をどのように構築するのかがポイントになると考えられます。例えば、建物間は、exp.jでつなぐのか、連絡通路なのか。外部との関係はどうするのか、課金ゾーニングをどこまで行うのか、等です。

3.屋上庭園を含む外構計画/配置計画

屋上庭園が出題されることが明示されたのは初めてのことです。「屋上庭園のある美術館分館」としてもよかったくらいですが、屋上庭園が美術館にかかるのか、分館にかかるのかわかりにくかったせいもあったのでしょう、s注釈扱いとなっています。単に屋上庭園があるということだけではなく、屋上庭園が大きな役割を果たす可能性もあります。加えて本来、あまり方位に関係しない美術館の敷地条件にあえて「方位等」としているのは気になります。

4.王道の公共施設型

美術館から常設展示や企画展示そして収蔵を除く、市民の創作活動の支援や展示等を行うための施設は、ほぼほぼコミュニティセンター系の公共施設型です。王道の出題であり、基本が身についているのか問われる課題となりそうです。

5.パッシブデザインは不可欠

このご時世、美術館の分館でも、自然光の利用から空調負荷の抑制、等、パッシブデザインからアクティブデザインまで、総合的な省エネルギー、環境負荷低減をめざすことは必須と言えるでしょう。

■試験対策

1.美術館を理解しよう

まず美術館の機能の基本、エントランスから常設展示、企画展示、収蔵庫あたりくらいは確実に理解をしておいてください。その上で、市民の創作活動やワークショップ、展示空間は、分館にまとめられることになります。施設見学等も、この市民創作活動の部分にフォーカスして見学するといいかと思われます。また美術館の根拠法は博物館法なので、一度くらいは目を通しておくことをオススメします。

2.本館と分館の関係性を理解しよう

本館と分館は隣地ですが別敷地となります。そして別敷地ですが機能的には一体で機能する必要があります。つなぎ方にも一体的につなぐh17型から、通路でつなぐS61型が考えられますし、中庭を挟んで視覚的に空間を共有するようにしつつ、連絡通路だけで出題する可能性もあります。この本館と分館の関係性については徹底的にパターン化して、対応できるようにしておく必要があります。

3.屋上庭園の事前明示を考えること

ちょっと予測がつきませんが、単なる屋上庭園の出題とは思えません。ここは、外部からのアプローチや、施設内アプローチ、利用方法等に何か大きな特徴がある可能性があるかもしれないと考える方が安全側でしょう。逆に言えば、当日突然出題しても解けないような切口を屋上庭園に用意している可能性があります。屋上庭園博士になるくらい、調べておいた方がよいと考えられます。

4.王道の公共施設型を理解しよう

これについては、拙著「ステップで攻略するエスキース」で丸々1冊解説しています。王道の公共施設型はこのテキストの完全理解だけで十分対策できます。


■試験対策スケジュール

製図試験comでは期間を5つに区切っています。

■製図試験comカリキュラム

製図試験comでは上記日程にしたがって、添削コースとして、オープン課題、模試を含む5課題、問題集4課題(以上10課題)課題分析テキスト、課題専用パーツ集、及び別途講習会があります。そのお知らせは7月29日に配信予定です。なおお試しでオープン課題は問題文解答例ともに無償公開、第1課題は問題文のみ無償で公開します。

上記情報については、赤の「製図試験comマニュアル」に詳しく解説してありますのでご参照ください。

 

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