一級建築士設計製図試験に向けて勉強していると、「実務ではこうしないのに」「実際の設計ならもっと検討するのに」と感じる場面があると思います。特に、日頃から設計実務に関わっている方ほど、その違和感が強くなり、かえって手が止まってしまうことがあります。
しかし、その違和感に気づけたこと自体は、とても大切です。製図試験は、たしかに実務をもとに作られてきましたが、6時間30分という極端に限られた時間の中で成立するように、実務とはまったく別のルールへ置き換えられたガラパゴス化された試験となっています。
製図試験は「実務そのもの」ではなく、試験用に編集された世界です
したがって製図試験は実務のシミュレーションとして試験化されたものですが、実務とは全くかけ離れた別物として対応する必要があります。
ここを取り違えると、実務経験があることが強みになるどころか、判断を迷わせる原因になることがあります。もちろん、実務経験は空間感覚や法規の理解、建築的な常識を支えてくれます。ですが、試験本番で求められるのは「現実の設計を丁寧に進める力」ではなく、「試験条件の中で、減点できない図面と記述を時間内にまとめる力」です。
この試験を過度に神格化せず、かといって軽く見ることもなく、製図試験という独自の競技(ゲーム)として捉えることです。競技(ゲーム)には独特のルールがあります。そこを理解すると、勉強の方向性がかなり整理されていきます。
実務経験者ほど製図試験で迷いやすい理由
製図試験が難しく感じられる理由のひとつは、「設計だから自由度が高いはずだ」という思い込みです。実務では、施主との打合せ、行政協議、構造・設備との調整、コスト、施工性など、多くの要素を行き来しながら設計を進めます。
一方で、試験ではそれらを深く掘り下げる時間はありません。与えられた条件を読み取り、破綻しない計画を組み立て、作図し、記述まで終える必要があります。つまり、試験中に求められるのは「最適解を探し続けること」ではなく、合格に必要な水準で時間内に素早く決めることです。
ここで重要なのが、「郷に入っては郷に従え」という感覚です。製図試験には、実務とは異なるローカルルールがあります。ガラパゴス化しているわけです。その世界のルールを知らないまま、実務の常識だけで戦おうとすると、どうしても時間が足りなくなります。
よくあるつまずき方
実務をしている方、または実務との差異が気になって集中できない方に多い失敗には、いくつかの共通点があります。
- 実務的な納まりやリアリティを考えすぎて、エスキースの決断が遅くなる
- 「本当にこの計画でよいのか」と何度も戻ってしまい、作図時間が削られる
- 採点上重要な条件より、自分が気になる設計上の美しさを優先してしまう
- 6時間30分の試験であることを忘れ、実務と同じ密度で検討しようとする
- 試験特有の表現や割り切りを「不自然」と感じて受け入れられない
これらは能力不足ではありません。むしろ、真面目に建築を考えているからこそ起こります。ただし、本番ではその真面目さを少し変換する必要があります。製図試験では、現実の設計力をそのまま出すのではなく、試験用に圧縮して表現する力が問われます。
本番では「実務モード」から「試験処理モード」へ切り替える
本番で大切なのは、問題文を読んだ瞬間から、実務的な設計検討ではなく、試験処理として動くことです。もちろん、建築として成立していることは前提です。しかし、そこに時間をかけすぎると、合格図面を完成させる前に試験が終わってしまいます。
まず読解とエスキースで確認したいのは、要求室、面積、階構成、動線、その他の施設、構造・設備、そして法規など、採点に直結しやすい条件です。次に、それらを大きく破綻しない形で配置し、早い段階で方針を固めます。ここで完璧を求めすぎないことが重要です。
その後は、作図、記述、最終チェックを一連の流れとして進めます。途中で気になる部分が出ても、「今戻るべきことか」「後で調整できることか」を分けて判断します。試験は、時間内に答案を完成させて初めて評価の土俵に乗ります。
合格答案に近づくための意識
製図試験では、実務のように全てを丁寧に詰めることはできません。だからこそ、優先順位が必要です。大きな条件違反を避けること、計画の骨格を崩さないこと、アルナシ・面積・法規を守ること。そして時間内にまとめる意識が欠かせません。
実務経験がある方ほど、「もっと良くできる」と思える瞬間があるはずです。しかし本番では、その気持ちを一度横に置き、「この試験で求められる水準に届いているか」を基準にしてください。
試験前に確認しておきたいこと
最後に、勉強中や本番前に自分へ問いかけてほしいポイントを整理します。
- 製図試験を、実務そのものの延長だと思い込んでいないか
- 6時間30分という制約を前提に判断できているか
- 実務との差異に引っ張られすぎて、手が止まっていないか
- 試験特有のローカルルールを受け入れる準備ができているか
- 時間内に完成させるための割り切りを持てているか
製図試験は、実務のシミュレーションとして作られているという意味では半分正しいです。しかし、6時間30分という制約によって、実務とは全く異なる試験になっているという意味では、半分間違っています。大切なのは、その事実に気づき、対応策を持つことです。
製図試験.comLABで、試験用の見方を身につける
「製図試験は製図試験にあらず、これを製図試験という。」
少し禅問答のようですが、ここを理解できると、これまでの勉強の見え方が変わります。
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